写真は山口県下関市の南風泊(はえどまり)市場でフグ(地元では「フク」)の競りをしている場面。「袋競り」という独特の方法で、買い手が黒い筒状の袋の中で売り手の指を握って値をつける。市場の人々の真剣な表情をとらえた活気あふれる1枚だ。1984(昭和59)年8月号のフグ特集に掲載された。
取材で下関市を訪れた特集の筆者ノエル・D・ベトマイヤーはフグの毒についてよほど気になっていたのか、記事の冒頭から1 ページ半にもわたって毒の話を書いている。「片棒をかつぐゆふべの鰒(ふぐ)仲間」という江戸時代の川柳を引用し、有名な歌舞伎役者がフグ毒に当たって死んだという話も盛り込んだ。毒に当たるとどうなるか、料理店の店主に尋ねると、「それはそれはひどい死に方だよ」と恐ろしい話を聞かされた。
「衛生管理を重んじる日本人がなぜ猛毒をもつ魚を食べるのか、外国人には理解しがたい」。そう思ったベトマイヤーは下関市の料理店に赴いた。調理場に入れてもらい、有毒部位が取り除かれたことをまず確認。そして、ツルの形に美しく盛りつけられた刺し身を箸でつまみ、しょうゆをつけて、口に入れた。「味はごくわずかにあるだけだ。魚というより鶏肉のようで、シーフードらしさはほとんど感じない。フグの味は日本画を思い起こさせる。繊細で、とらえがたく、えも言われぬ味。日本の絹織物のようになめらかだ…… おいしい!」
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2023年12月号に掲載されたものです。
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