漁で死ぬサメは年間約8000万匹、フカヒレ漁規制するも増加、研究

サメ肉や化粧品原料などの需要高まる、より幅広い規制が必要

2024.01.17
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サメの種のおよそ3分の1が絶滅の危機に瀕している。にもかかわらず毎年、何数千万匹ものサメが、商業漁業が原因で死んでいる。(PHOTOGRAPH BY DAVID MAUPILE / LAIF / REDUX)
サメの種のおよそ3分の1が絶滅の危機に瀕している。にもかかわらず毎年、何数千万匹ものサメが、商業漁業が原因で死んでいる。(PHOTOGRAPH BY DAVID MAUPILE / LAIF / REDUX)
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 2019年、漁業が原因で死んだサメは少なくとも7900万匹に上った。その内、約2500万匹は絶滅が危惧されている種だった。漁業によって死ぬサメの数は、この10年間ほぼ横ばいで、むしろ増えてさえいる。

 2024年1月11日付で学術誌「サイエンス」に掲載された論文によると、ヒレだけを切り落とし、あとは生きたまま海に捨てる「フィニング」という人間の行為で死ぬサメは、10年前に比べ減っている。フィニングは現在、海に面した国と地域の約7割で禁止されている。しかし、規制によってフィニングの件数が減っても、サメの命が救われているわけではないと、論文を書いた国際調査チームは訴える。

「世界的に見て、サメの死亡率(年間の死亡数)はむしろわずかに増えています」と、カナダ、ダルハウジー大学の海洋生態学者ボリス・ワーム氏は指摘する。現在、ほとんどのサメは丸ごと水揚げされている。また、サメ製品の需要は伸び続けており、サメの乱獲は続いたままだ。

ブラジルのサンタカタリーナ州にある水産会社で捕れたばかりのサメを洗う従業員。(PHOTOGRAPH BY VICTOR MORIYAMA FOR NATIONAL GEOGRAPHIC)
ブラジルのサンタカタリーナ州にある水産会社で捕れたばかりのサメを洗う従業員。(PHOTOGRAPH BY VICTOR MORIYAMA FOR NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 ワーム氏は7人の研究者とともに3年間をかけてサメの死亡率と漁業規制に関するデータを集めてきた。「サメの漁獲量は過少報告されていることで有名で、極めて困難な作業でした」とワーム氏は言う。「私たちは、漁獲量はもちろんのこと、国際水域上にいる漁業監視船からのデータや、沿岸で行われているレジャーフィッシング、零細漁業、さらには違法漁業からの推定漁獲量など、入手できるものはすべて集めました」

 全世界的に分析すると、サメ漁やフィニングに関する規制は10倍に増えているものの、この10年間でサメの死亡率はほぼ変化しておらず、漁業が原因で死んだサメは2012年には7600万匹、2017年には少なくとも8000万匹いたと推定される。漁獲量が詳細に、あるいはまったく報告されていないケースがあることを考えれば、実際の死亡数はこれよりもずっと多いのではと研究者たちは考えている。(参考記事:「ここ50年で70%減少 外洋性のサメとエイをどう守る?」

サメ市場は拡大

 フィニングが規制されたことで、「捕らえられた多くのサメを種のレベルで判定できるようになりました。これは漁獲と取引を規制する上で重要であり、今後の調査の助けになるでしょう」と指摘するのは、カナダ、サイモンフレーザー大学の海洋生態学者ニコラス・ダルビー氏だ。

「現在、サメの国際取引への規制が始まっており、100種以上のサメがワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)によって保護されています」とダルビー氏は言う。なお、氏は今回の調査には参加していない。

 こうした規制によって遠洋漁業によって死ぬサメの数は減ってきている。その一方で、沿岸漁業による漁獲は増え始めている。

 その理由を探るため、研究者たちは、科学者、自然保護活動家、漁業者、サメ製品を製造する企業関係者など22人の専門家に聞き取り調査を行った。

「彼らは皆、サメ製品の市場が拡大したことを理由に挙げています」と、今回の報告書の共著者であり、カナダのカールトン大学で自然保護を研究するローレン・シラー氏は言う。「フィニングが規制されたことで、むしろサメの利用のしかたが広がったのが理由の一つだと考えられます」

 今も人気が高いフカヒレスープだけでなく、絶滅が危惧されている種からのものを含めサメ肉はさまざまな食品に利用されている。フィッシュアンドチップスやセビチェ(魚介類のマリネ)用の肉のほか、メカジキと偽って使われることもある。

次ページ:医薬品や化粧品の原料にも

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