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<スリー・リバーズ・ペトログリフ:1400~800年前、ニューメキシコ州> ホルナーダ・モゴヨン族の人々が岩に彫ったこの絵は、ガラガラヘビの尾をもつ大きなネコだと考えられる。こうした岩に刻まれた絵が、玄武岩の尾根に長さ1.5キロにわたって2万1000点も見られる。(PHOTOGRAPH BY STEPHEN ALVAREZ)

岩に残された、太古の物語

2024.04.30
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この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2024年5月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

何千年もの長きにわたって、先住民の人々は現在の北米各地で、自分たちの物語を岩や大地に刻みつけたり描いたりしてきた。多くの芸術作品の存在が明らかになるにつれ、先住民と非先住民の両方の専門家たちが、豊かな文化遺産を紹介しようと努めている。

 古代の先住民による芸術作品に関しては、わかっていないことが非常に多い。正確にはいつ作られたのか? 作り手にとって、その作品はいったい何を意味していたのだろう? それでも私たちは、岩に彫られ、石に描かれ、泥に刻まれ、大地に築かれた作品から、多くを学び取ることができる。おそらく最も重要な点は、何万年にもわたって、米国先住民の豊かな社会が「カメの島」(多くの先住民は北米大陸をこう呼ぶことを好む)に存在してきたということだろう。

<span style="font-size: 15px; font-weight: bold; ">セゴ・キャニオン・ピクトグラフ</span><br><span style="font-size: 14px; font-weight: normal; ">2000~300年前、ユタ州</span>
セゴ・キャニオン・ピクトグラフ
2000~300年前、ユタ州
「この畏敬の念を起こさせる場所には、3つの主な岩壁があり、バリアー・キャニオン、フリーモント、ユートという別々の文化や時代の様式で描かれています」と、ユタ州所属の考古学者だったケビン・ジョーンズは話す。巨大な幽霊のような人物や、ごく小さな動物のようなものを描いた色彩豊かな岩絵は、バリアー・キャニオンに暮らす先住民が、退色しにくい多色の顔料を巧みに使っていたことを示している。(PHOTOGRAPH BY STEPHEN ALVAREZ)
<span style="font-size: 15px; font-weight: bold; ">ブライス・インタグリオス</span><br><span style="font-size: 14px; font-weight: normal; ">2000~450年前、カリフォルニア州</span>
ブライス・インタグリオス
2000~450年前、カリフォルニア州
米国西部に何百点もある地上絵のなかでも、特に有名な作品。全部で6点あり、最大のものは長さ52メートルに及ぶ。この巨大な沈み彫り(インタグリオス)は、岩の表面の暗い色の砂漠うるし(鉄やマンガンの酸化物)をかき取り、本来の岩の明るい色が現れることを利用して描かれた。作者やその意図については現在も不明だが、コロラド川下流域の先住民は、万物の創造者マスタモと創造を手伝った動物ハタクリャを表すと信じている。(PHOTOGRAPH BY STEPHEN ALVAREZ)

 精巧なペトログリフ(岩に刻まれた絵)やピクトグラフ(岩に顔料で描かれた絵)、地上絵は、過去を現在へ、そして未来へとつなげる役割を果たす。こうした芸術は、先住民の血を受け継ぐ共同体にとって、植民地主義によってほぼ完全に破壊された伝統的な生活様式の復活を象徴するものだ。

洞窟探検家のアラン・クレスラーと、考古学者でテネシー大学名誉教授のジャン・シメックは、自然光の届かない洞窟空間で、何年も共同で壁画を調査した末に、絵のかすかな痕跡に気づいた。その後、写真家のスティーブン・アルバレスが写真測量法という技術を利用し、洞窟の天井に彫られた絵の3Dモデルを制作して初めて、その痕跡が儀式用の服を着た身長2メートルの人物像だと確認できた。面積460平方メートルの空間の天井に刻まれた数千点の絵は、極めてもろく崩れやすい。場所によっては天井までの高さは約60センチしかなく、先住民はあおむけになり、たいまつの明かりで絵を描かなければならなかっただろう。(スケッチ:JAN SIMEK / PHOTOGRAPH BY STEPHEN ALVAREZ)
洞窟探検家のアラン・クレスラーと、考古学者でテネシー大学名誉教授のジャン・シメックは、自然光の届かない洞窟空間で、何年も共同で壁画を調査した末に、絵のかすかな痕跡に気づいた。その後、写真家のスティーブン・アルバレスが写真測量法という技術を利用し、洞窟の天井に彫られた絵の3Dモデルを制作して初めて、その痕跡が儀式用の服を着た身長2メートルの人物像だと確認できた。面積460平方メートルの空間の天井に刻まれた数千点の絵は、極めてもろく崩れやすい。場所によっては天井までの高さは約60センチしかなく、先住民はあおむけになり、たいまつの明かりで絵を描かなければならなかっただろう。(スケッチ:JAN SIMEK / PHOTOGRAPH BY STEPHEN ALVAREZ)

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