「天空の寺院」も、カンボジアの知られざる古代遺跡4選

2023年に登録された世界遺産ほか、見どころはアンコール・ワットだけじゃない

2024.04.28
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世界遺産に登録されているカンボジアのサンボー・プレイ・クック遺跡は、アンコール・ワットほどの注目は集めていないものの、クメール王朝の文化をよく伝えている。(Photograph by Anna Mazurek)
世界遺産に登録されているカンボジアのサンボー・プレイ・クック遺跡は、アンコール・ワットほどの注目は集めていないものの、クメール王朝の文化をよく伝えている。(Photograph by Anna Mazurek)

 900年前に建造されたカンボジアのアンコール・ワットには、2024年はおよそ140万人が訪れる見込みだという。しかし考古学者のサラ・クラッセン氏によると、そこから北東へ110キロほど離れた場所にも、一時クメール王朝の首都だった遺跡がある。コー・ケー遺跡だ。

 カンボジア最大のピラミッドを含むこの遺跡群は、2023年にユネスコの世界遺産に登録された。カンボジアには、このように歴史的価値が非常に高いものの、旅行者にはとかく見落とされがちな遺跡が数多くある。9世紀から15世紀にかけて繁栄したクメール王朝と、あまり知られていない遺跡を4カ所紹介しよう。(参考記事:「アンコール遺跡だけじゃない、カンボジア古都の旅」

クメール王朝の興隆とアンコールの繁栄

 802年ごろ始まったクメール王朝は、その後現在のベトナムからミャンマーに及ぶ領土を支配し、東南アジアで最も有力な国の1つとなった。

 強大な権力を持つ君主は神と崇められ、首都はアンコールに置かれた。現在ここには広さ約1.6平方キロメートルに及ぶアンコール・ワットが残っている。

 12世紀に建立されたこの大寺院は、緻密なレリーフ彫刻が施された高くそびえる尖塔、屋根付きの回廊、広々とした中庭などを特徴とした世界最大級の宗教的建造物だ。カンボジアを代表する聖地として、国旗にも描かれている。(参考記事:「世界最大級の宗教建築物、アンコール・ワットの歴史」

「アンコールに残っているような巨大建造物を造るには、膨大な労働力が必要です。それだけの数の人々を動員できた王朝の力には驚かされます」とクラッセン氏は言う。カンボジアの古代遺跡をレーザー技術を使って調査するCALI(Cambodian Archaeological Lidar Initiative)プロジェクトの共同ディレクターで、コー・ケー遺跡考古学調査プロジェクトのディレクターでもあるクラッセン氏は、こうした遺跡は文明の「富と権力の証し」だと付け加えた。

 乾期が長い東南アジアを統治するには、高度な貯水と用水路のシステムが欠かせない。「水の管理と王権は密接に結びついていました」と言うクラッセン氏は、治水を適切に行えなくなったことが王朝の滅亡へとつながっていったのではないかと指摘する。

ギャラリー:魅惑のアンコール寺院群、カンボジア 写真10点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:魅惑のアンコール寺院群、カンボジア 写真10点(写真クリックでギャラリーページへ)
1200年ごろに建てられたアンコール・トムのバイヨン寺院。中央には高さ約30メートルの塔があり、それを囲むように54の塔が作られている。まるでジャングルの中にある石の森だ。(KOSEL SALTO/GETTY IMAGES)

アンコール・ワット以外のおすすめの遺跡

コー・ケー遺跡群

 カンボジア最大のピラミッド「プラン」は、コー・ケー遺跡群の中心的存在だ。

 コー・ケーにはクメール王朝の首都も置かれたことがあり、「地位的にもアンコール遺跡に匹敵する唯一の遺跡です。しかし、ここが首都だったのはたった16年間でした」とクラッセン氏は言う。首都がアンコールに戻された理由は、クラッセン氏などコー・ケー遺跡を調査する研究者が解き明かそうとしている謎の1つだ。(参考記事:「ギャラリー:魅惑のアンコール寺院群、カンボジア 写真10点」

ギャラリー:カンボジアの知られざる古代遺跡 写真6点(画像クリックでギャラリーへ)
ギャラリー:カンボジアの知られざる古代遺跡 写真6点(画像クリックでギャラリーへ)
2023年に世界遺産に登録されたコー・ケー遺跡群の中には、7層建てのピラミッド「プラン」も含まれる。高さは約35メートルあり、カンボジア最大のピラミッドだ。

 コー・ケー遺跡群は10世紀、ジャヤバルマン4世によって築かれ、リンガの彫像が多くあることで有名なヒンドゥー教の寺院跡だ(リンガは男性器をかたどった円柱状の像で、シバ神の象徴)。プレア・ビヒア国家局で記念碑・考古学部門のディレクターを務めるエア・ダリス氏によると、この遺跡群では、リンガはピラミッドだけではなく、20以上の寺院に置かれている。

 採石場から近かったこともあり、高さ35メートルのピラミッド、リンテル(窓や出入り口などの上に水平に渡したブロック)、像など、コー・ケーの建造物はアンコールのものより精巧にできている。

「巨大な一枚岩が最初に使われたのもコー・ケーでした」とダリス氏は言う。コー・ケー遺跡群は、アンコール・ワットと似た造りをしている12世紀のベンメリア遺跡と一緒に訪ねることも可能だ。

次ページ:500メートルを超える断崖の上に建つ「天空の寺院」

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